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2008年5月17日 (土)

お話で「なめとこ山のくま」

   ストーリーテリングの魅力〜『なめとこ山のくま』
                      
 好きなおはなしだが、なぜ好きか、その理由がわからないものがあります。かこさとしの『どろぼうがっこう』(偕成社)もそうです。絵本でも、おはなしでもやります。(宮沢賢治の『狼森と笊森、盗森』と関係ある、と聞いたことはあります)
 宮沢賢治の『なめとこ山のくま』もそうです。おはなしの表現の、参考になるかと、なぜ好きなのか考えてみました。作品は6つの話(段落)からなっています。第2の話と第5・6の(ひと続きの)話は、冬のシーンです。私は雪国育ちなので、寒いのは嫌いですが、凍った世界はとても魅力的です。冬のシーンがあるから、おはなしでやるのです。くまが口をきいても気にしません。賢治独特の表現も魅力です。でもそれだけでもないようです。賢治の童話を「法華童話」とも言うそうです。この作品は、殺生がテーマなのでしょう。猟師の現実や、考え方はもっと違うものでしょう。それを透き通った、くまと小十郎の世界に昇華するために、第3話で、くまの皮を町に売りに行く、小十郎の説明をしています。
 第1話の構文は複雑です。なめとこ山の描写を3回たたみかけています。「なめとこ山は大きな山だ。と次の文」「なめとこ山は一年のうちたいていの日は、と淵沢川」「中山街道から大空滝までの描写」と、映画のカメラを後ろへ引いていくように、同じ山を3回描写しています。それに、くまの文を付け、小十郎を付け、「くまは小十郎をすきなのだ」と付け、犬を付け、小十郎のむすこ夫婦の死を説明するというように、先の文が、次の説明に自動的につながるような構文になっています。
 このように、小十郎の状況証拠を積み重ねるような、描写を見ると(どういう形で発表されたか分かりませんが)はたして完成稿なのか疑問が出ます。私は岩波版の童話集Åッ『風の又三郎』所収で覚えました。
Photo
 (岩波少年文庫「銀河鉄道の夜」)
天沢退二郎さんに聞いたら、この岩波版の底本はわからないそうです。ただこの未整理(?)の『なめとこ山』は逆に魅力的なので、他本との異同を調べる気はありません。たとえば、母くまを「おっかさん」とよんだ次には「おかあさま」と出てきます。どちらかに統一して、はなしたこともありますが、しっくりきません。賢治でも統一に至らなかったのでしょう。
 第5話の、糸を紡ぐばあさまと、うまやもそうです。第3話で「布にするようなものはなんにもできなかったのだ」と断ってますし、「まるで少しの畑」なら農耕馬はいりません。ただ、この短い第5話は、6話で小十郎が死んで残された者を、暗示する大事な部分です。聞き手は、瑣末な事は気にしないでしょう。
 このように意余って未整理な文章、あれもこれもと入れて、未完成な作品、そのあふれるものが、『なめとこ山』の魅力なのです。私も端から端まで好きなわけではありません。聞いてほしい部分があるから、おはなしでやるのです。話すときに、いらない所はさらりと流します。おはなしではそれが出来るのです。昔話だって、話し手によってまちまち、矛盾だらけの文章です。でもそれを越えた所に昔話の楽しさがあるのです。
 というわけで『なめとこ山』は、おはなしに向く作品です。覚えられなければ、声に出して読んであげて下さい。
  (高橋峰夫)

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