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2008年2月13日 (水)

エチオピアの昔話「山の上の火」

優れた昔話の重層性−『山の上の火』

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「山の上の火」
ハロルド・クーランダー
ウルフ・レスロー
渡辺茂男・訳
土方久功・絵
岩波書店 本体1800円
       

 岩波書店では、グリムをはじめ各国の昔話を出していましたが、その1冊に、クーランダー、レスローの『山の上の火』があります。訳は渡辺茂男、絵は土方久功です。アフリカのエチオピアの昔話集ですが、どれもストーリー・テリングに向く昔話です。「グラの木こり」や「アディ・ニハァスの英雄」などは、各国の同類のはなしの中でも、ず抜けた、とぼけた話です。この本を読むと、エチオピアの昔話は他の国とは違った雰囲気があります。おおらかで知的でユーモアがあります。
 解説によると、エチオピアは紀元前11世紀から10世紀にかけて、エジプトから独立した古い歴史をもつ王国で、エチオピアの昔話の中には、はじめからエチオピアのものもあれば、インドやアラビア、スーダンやコンゴーなどから伝わったものもあるそうです。
 つまり口承説話でも、イラクのアラビアン・ナイト並みの蓄積があるわけです。この本では、子ども向きのを選んだのでしょうが、そもそも昔話は大人のもの、いや大人も子どもも楽しめるものですから、この本のはなしも凝っています。
 そんなことを思ったのは表題の「山の上の火」の、おはなしの練習を始めてからです。召使をしている若者が、金持ちに「山の上でひと晩、はだかで立ってて死ななければ、土地をやる」と言われて、賭けに勝ったのに、約束は守られなかった。それを知恵者の手助けで解決する話です。昔話ですからオチまで言うと、落語の「鰻のにおいの代金を、お金の音で支払う」テクの逆手です。子どもの好きな話なので、おはなしする人はたくさんいます。
 「むかしアルハという若者がいました」と始まりますが、主役はアルハではありません。金持ちのハプトムです。ハプトムが、知恵者のハイルに、こらしめられる話です。
 あるいはアルハが主役の話と、ハイルが主役の話をつなげたものかも知れませんが、ハプトムを意識しないとつながらなくなります。
 前半では、聞き手はアルハの気持ちになって聞きます。スルタ山での寒さの描写、山の上の火の意味、と迫力ある感動的な話です。 賭けのほうびは、家と牛とヤギと40ヘクタールの畑ですからたいへんです。昔話の大袈裟かもしれませんが、40ヘクタールといえば広大です。難癖をつけてでも、賭けを認めたくない広さです。
 ハプトムの賭けの条件は、はなしの進行上必要なもの、とだけ思うと、気になりませんが、考えてみればひどい条件です。「きものもきないで、つったったまんま、それでも死なずにおることができるもんかな」とあります。話の最初では、ハプトムは「お金でやれることならなんでもやってしまったので、ときどき、たいくつでたまらなくなりました」と説明してあります。この因業さが、話の後半につながるのです。しかも裁判官までハプトムの味方をします。しかし、もの知りじいさんが「町の裁判官なんかよりも、山の人間のほうがずっとかしこいもんだ」と言って、ハイルに相談をもちかけます。ここから後半が始まります。
 ハイルは、ハプトムや裁判官や町の人達を、ごちそうに招待します。このごちそうの描写も魅力的ですし、「ごちそうのにおいは、お客たちのすきっぱらをぐうぐういわせました」。でも、においだけで、ごちそうは「夕方になっても」出てきません。ハイルのねらいは「鰻のにおい」ですから、ことばですぐに、やり込めてもいいのです。でも、全員を夕方までじらしたからこそ、説得力が出たのです。「裁判官は間違いにすぐ気がついたし、ハプトムはすっかり恥ずかしくなってしまいました。ハプトムは、ハイルにこのいましめのお礼をいって、アルハに土地と家と牛とヤギを与えることを、みんなの前で約束しました」。子供たちは、この結末で一安心ですが、はたしてハプトムは反省したのでしょうか。
 子供たちは、すなおに喜んで聞き、しかも大人たちは、深読みして楽しめる。大人も子どもも一緒に楽しめる。それが昔話の魅力でしょう。ぜひ覚えて、話してやってください。
 なお前半に、じいさんが「あしたのばんになったら、その岩の上で火をもやしてやろう」と言う箇所がありますが、あしたは「きょうの」間違いです。賭けに間に合わなくなりますので「ばんになったら、」でいいでしょう。     
   (高橋峰夫)

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