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2007年6月 5日 (火)

ハリー・ポッター最終巻は?

 ハリー・ポッターの「わかりやすさ」の陰に潜むもの
     〜イギリスの学校・日本の学校で〜

 ハリー・ポッターはご存じのように、魔法学校を舞台にした童話です。当然、イギリスの子供たちに馴染みのある学校生活が、モデルになっているわけです。私たちは、イギリスの学校は、実際のところ馴染みがありませんので、日教組の資料を孫引きしてみます。 総合制中学校のある例では 800名の生徒に対して、教師63名、給食関係職員9名、スポーツ芸能関係が12名、司書・事務職員21名、管理人( caretaker)が19名となっています。管理人に該当するのは、日本では用務員ですが、1校に1〜2名なのが、イギリスでは10倍近いスタッフ数です。これなら身分の不安定さ、差別は無いように思われますが、あの階級社会のイギリスで、どうでしょうか。
 実はハリー・ポッターの童話は、イギリス社会の差別感を、色濃く反映しています。のろわれたマグルの血、日本では「みつくち」論争となった(a harelip)といった表現です。「…本人が表紙を飾ったら、とても見られたものじゃない。ファッション感覚もゼロだ。バンドンの泣き妖怪を追い払った魔女はみつくちだった。要するに、そんなものですよ…」(『ハリー・ポッターと秘密の部屋』J,K,ローリング・静山社)。ファッションと「みつくち」を同等に並べた表現は、差別感が無いとは言えないでしょう。ちなみに、「バンドンの泣き妖怪を追い払った魔女はみつくちだった。」の1行は、いまの日本語版では削除されています。(原書はそのままですが。)
 ハリー・ポッターには、管理人のフィルチが登場します。彼1人ですが、魔法学校の管理人・調理員の仕事は「屋敷しもべ妖精」がこなしています。フィルチは敵役として、非常に悪意をもって表現されています。といって、悪人ではありません。学校側の走狗といった処でしょうか。「森番」のハグリッドとは対照的です。日本でも同じ対照となります。かって事務員は吏員、用務員は雇員になっていました。ところが警備員は吏員とされていました。
 こういった重層的な差別感に通底しているところが、イギリスの中産階級に受けた秘密だと思います。子供の読者だけではベストセラーになりません。さて、では子供に受けたのはなぜか。ストーリーの面白さもさることながら、学校の教師を、敵だと断言したことだと思います。良い教師もいれば、悪い教師もいる。悪い教師とは戦わなくてはならない。つまり学校は善意に満ち、生徒はその中で安心してられる、という訳ではない。学校も社会と同じなんだ、という作者の冷めた目、たぶん教育機関にあまり期待してないのでしょう。これは子供も学校でうっすら実感しています。それを断言してくれた。そして生徒は学校では弱者です。この童話は、弱者の反乱の物語なのです。
 日本にもハリー・ポッターより前に、ベストセラーになった学園マンガがあります。永井豪の『ハレンチ学園』です。醜悪なまでに戯画化された教師や手前勝手な親達との全面戦争です。このマンガは女性のハダカを出したことで批判されましたが、それがベストセラーの原因ではない、というのが斉藤次郎の批評です。(シリーズ子どもと教育・『少年ジャンプ』の時代・岩波書店)
 さて、学校も社会と同じだとわかったのはいいが、それだけでは、子供が落ち着けません。特に成績の悪い子や問題児はそうでしょう。 ハリー・ポッターは問題児です。教師に反抗し、規則を無視します。それでも教師は、味方してくれます。敵だと思っていた、大嫌いな教師にさえ助けられます。社会では、敵か味方か簡単にわけられないとも言えますが、ある意味では、依怙ひいきです。それはハリーが特権階級の出、高貴な血だからです。
 先の副将軍という身分を隠し、印籠を懐に市井をさまよう『水戸黄門』、さえないサラリーマンでありながら、自分の会社の社長と対等につきあえる『釣りバカ日誌』と同じ、わかりやすい安心できるパターンです。
 私は、ハリー・ポッターのシリーズは全部読み、子供にビデオも全部買ってやりました。あれだけ長い物語でありながら、一気に読めますが、各巻の記憶がごっちゃになります。どの巻を読んでも、同じ所をぐるぐる回ってる気がします。つまり『指輪物語』や『ナルニア国ものがたり』のようなストーリーの発展性がない。
 ローリングが、ハリー・ポッターの最後の巻で、どの様な終わり方をするか。作品の発展性と完結性が出るか、今後の楽しみです。
(高橋峰夫)

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